映画感想;ミッドナイトスワン LGBT映画では括れない衝撃作
あまりプロモーションされてない中でスゴい作品だとの評判だったので抑えておきたいと思っていた映画。やっと観てきました。
総評:ネタバレなし
これだけで予告すら観ず、土曜の朝の上映に鑑賞しました。
見終わった感想。
只々凄い。
衝撃作。
心を何かで殴られたような衝撃。
そして土曜の昼間に目を真っ赤に晴らし、鼻水が止まらない状態で暗い映画館から、明るい外に出なくは行けない状況に非常に困りましたwww
トランジェンダーの精神的苦悩を描いた今何かと話題になっているLGBTを取り扱っているジャンル映画かと思ったら、想像を超えるとんでもない衝撃の人間ドラマだった。
鑑賞後、草薙さんのYoutubeチャンネルで内田監督が演技にこだわったとコメントしてたのですが、まさにそのとおりキャスト全員の演技が凄まじかったです。
でもそれだけでなく魅せ方も脚本も素晴らしかった。
トランスジェンダーの方の苦しみにも中々踏み込んでて、結構エグいと思われるところもあり、万人にオススメできないかもしれないがそれでも多くの人に観てもらいたい映画でした。
まだ観てない方へ;鑑賞前にオススメする3点
マスクは勿論、サングラス持参で
この映画、クライマックスとかなくずっと心を揺さぶってきます。
上映時間約2時間中、3分の2ぐらいの時間泣きっぱなしになるかもしれません。館内私だけでなく他のお客さんもそうでした。こんなに長時間泣き晴らすと目が真っ赤になり腫れてしまいます。
泣き方も人それぞれだと思いますが、号泣レベルで鼻水を伴う可能性があります。
マスクはご時世的には持参されてると思いますので、館内から外に出る時に恥ずかしくならないよう、サングラスを持参して臨みましょう。
あ!後ハンカチも忘れずに
夕方や夜に観ること
心を揺さぶられすぎて、観た後何も手につかなくなります。
私は鑑賞後に兼ねてから行きたかったラーメン屋に行きましたが、その前の感動が大きすぎて美味しい感動が半減してしまいました。
非常に勿体ない思いをしました。
一日に感動することは1回まで。今回で得た教訓です。
初デートにこの映画をチョイスしてはいけない
正直この映画はデート向きではないと思います。
本当に親密な人とならこの衝撃をシェアする事ができると思いますが、うっかり付き合いたてでまだ見栄を貼っているような状況でこれを観てしまうと自分の本性をさらけ出さざるを得なくなってしまい気まずい思いをしてしまうでしょうw
独りで観に行って本当に良かったです。
ネタバレあり;ミッドナイトスワンの複雑なテーマ
ここからはネタバレになりますので、観てない方は閲覧に注意願います。
LGBTというマイノリティで生きるということ
この話題については、昨今理解が広まっているとはいえまだまだセンシビリティなテーマです。もし間違ってたらご指摘願います。
主人公の凪沙はトランスジェンダーで、身体は男性だが性自認が女性。恋愛対象は必ずしも男性ではないようで、身体も女性になることで心の矛盾を解消しようとしているようです。
光と影
ショーパブで働いている華やかさと、そこから出た生活の地味さがとにかく切ない。
性転換するために容器にお金を貯金してたり、一果を預かるためにお金に苦労する様子はショーパブなどの光しか知らない私達に現実を見せつけます。
心だけでなく身体にも苦しめられる
また、心の苦悩だけでなく体の苦労についてもこの映画は描いてます。定期的にホルモンを注射する様子や、バランスが悪いのかよく汗をかいたりふらついて歩く様。
そして性転換手術後のメンテナンスの必要性とその顛末まで…
心だけでなく身体にも生きづらさがあることをまじまじと見せられました。
※実際は今の医療技術の向上で生死に関わるほどの後遺症のようなものは、殆どないようで少し安心しました。
なりたくてなっているわけでない
この映画のなかで、主人公の凪沙、そして友人であり同僚だった瑞貴がそれぞれの場面で
「何で私だけが・・・」と泣いているシーンがありました。
ここでハッとさせられたのが、トランスジェンダーの方は当然ご自身の意志で女装されたり、女性化しようとしてるのだと思いますが、決してなりたくてなっているわけじゃない。
「性(さが)」であることに気付かされました。
結局は一人の人間として、個人として理解することが大事なのではと思いました。
思春期の傷ついたこどもを突然預かるということ
この映画はトランスジェンダー、LGBTだけがテーマではなく子供の虐待、ネグレクトも一つのテーマでした。
とはいえ焦点はそこでなく、一人の独身者が突然思春期の、しかもネグレクトで傷ついた女の子を預かるという難易度の高い状況をどう過ごすかに個人的には強く興味を惹かれました。
子供との距離感
ネグレクトで傷つき、いやいや預かる親戚の主人公に対し、一果はしばらく無言でした。
そして、最初に言葉を発したのは拒絶の言葉を叫ぶことでした。
しかし、凪沙のバレエの衣装にインスパイアされた一果はバレエに触れることで救いを感じ、また共通項が出来た凪沙とも距離を急速に縮めることが出来ました。
一果の才能を理解した凪沙はそこから母性に目覚め、自分のことより一果の夢のために、奔走することとなります。
冷たいおばさん?から段々母性に満ちた表情に変わっていく草薙さんの演技が見どころでした。
子供だって親には自分らしく生きてほしい
凪沙は避けてきた風俗の仕事をやろうとしてまでも一果のバレエを続けさせ、大会にも出してあげたいと奔走します。
そして最終的には普通の就職のため男性の姿になります。
ここで一果は凪沙を拒絶します。それは凪沙は凪沙らしく生きてほしい一果の優しさでした。
この二人の健気さに心を強く打たれました。
愛するもののために生きる尊さと実の親でないものへの光明
この映画で一番の共感は中年独身者が突然、親のような立場になって本当に責任が全うできるのかという不安でした。
しかし、トランスジェンダーという更にもう一つ複雑な要素を抱えた凪沙が、最初はいやいやだったのに次第に親のように変わっていったこと、一果それに答えていったことに個人的には光明を感じました。
反面、実の親の早織も自分なりに娘を育てようとしていており、一果もそれを拒んではいませんでした。
凪沙と早織の喧嘩シーンは必死に母であろうとする早織の感情が酷い言葉や暴力になったのだと思うと、何とも悲しいシーンでした。
それ以上に、実家にカミングアウトしてまで一果を救おうとした凪沙の姿に中年独身者が突然既に物心ついた子供の親になったら、、、に一つの答えを与えてくれたように思えます。
自殺や自傷行為に思うこと
ミッドナイトスワンでもう一つ踏み込んでいるのが自殺と自傷行為も描いていることです。
残された人に強い衝撃を残す
この映画で私が強烈に印象深かったのは、一果の発表会とりんのバレエを踊りがシンクロしながら、りんが飛び降りてしまうシーンでした。
りんの自殺シーンはこの飛び降りだけで周辺の騒ぎは、一切描かれなかったものの、大舞台に立っている一果にはりんの死を感じてしまい踊りを止めてしまいます。
自殺というものはどうであれ、残されたものに強烈な影、後悔を残してしまいます。
シグナルを感じ、救えるのか
一果もまた、強いストレスを感じると自分の手を傷つくほど強く噛む自傷行為をしてしまう癖を持ってしまってます。
自殺も自傷行為も自分を大切にできない、悲しい行為です。シグナルを感じて何かしてあげられないのか。
ついそう思ってしまいます。
以前、ふと寄ったコンビニでレジを打ってくれた店員さんの手首が深い傷跡だらけたったのを見てしまったときがあります。
しかし私はとっさに見てないふりをして足早にさってしまったことを思い出してしまいました。
こういう問題にぶち当たった時、本当に自分は無力です。
しかし、凪沙はそれを感じ救おうと必死に生きたところに強い感動を与えてくれたと思います。
関連映画;この映画と一緒に観たい映画
レオン
社会の裏側で生きている男が、傷ついた女の子と短く強烈な共同生活を送る。
そしてその男はその女の子の一生忘れられないヒーローになる。
共通するところが多く、実際内田監督が一果役の服部樹咲さんに魅せた映画だそうです。
ブラックスワン
この映画を観たことがあったせいか、バレエのシーンの緊張感が尋常じゃなかった。
一果とりんが別のところでシンクロしながらバレエ・ダンスをするシーンがナタリー・ポートマンとミラ・クニスが別々のところで踊っているシーンと重なり、印象深い。
才能×努力のバレエの厳しい世界がわかる映画
レスラー
全盛期を過ぎたレスラーが、ドーピング注射などを打ち続けボロボロになりながらもプロレスを続ける。
プロレスファンからしたら、見たくないような現実を晒しているところと、普段はショーパブなどで華やかに見える世界のうらで、ホルモン注射を打ち続け、同じくボロボロになっていく様が似ている。
そしてこのレスラーも娘のために、一度普通の仕事につこうとするも挫折して戻ってしまうところも似ている。
監督はブラックスワンと同じ
最後に
この映画はLGBT映画というジャンル映画ではなく、色んな重厚なテーマに向き合った衝撃作です。
気軽な気持ちで観てしまうと本当にズシンと心が奪われてしまいます。
でも色んな人に観てもらいたい。そんな映画でした。